いつでもコッコ日和 第12号

障害を持ったクッちゃん物語…

養鶏農家として、毎日のコッコ達の健康に気を遣い、できるだけ快適に暮らせるよう心を砕き、設備を整え、自然な環境で過ごせるようにお手伝いをする、そんなことを大切にしていきたいと思っています。そのようにコッコ達に思いを入れますが、個々のコッコに必要以上に入れ込まないようには気を付けています。そこが養鶏農家にとっての家畜と家庭でのペットの違いかなと思います。

ペットに対しては複数匹いる場合でも、それぞれに愛情を注ぎ、かわいがり、時には甘やかしてしまうことも。そしてその一生に寄り添います。しかし養鶏農家にとっての家畜はそうはいきません。廃鶏の問題等考えていかなければならないことはありますが、一生に寄り添うことはできないのです。今後訪れるであろう別れに、入れ込んでいたら気持ちが持たないという面もあります。

そういうことで、コッコに名前を付けることは基本的にはしないのですが、それはあくまでも原則のはなし。物事には例外はあります。以前にこのコッコ日和でも紹介した、どうしても集団に馴染めず避難小屋で暮らす内弁慶のオスは家族から白ちゃんと呼ばれています。その他にも尾っぽに黒い羽根が生えているオスで、第三鶏舎のリーダー・オグロなど、名前を付けられているコッコがいます。それぞれちょっと弱いところがあり気を付けなければならないとか、逆にやたらと攻撃的で世話をする方が気を付けなければならないなど、特徴があったり色々目につく存在なコッコに名前が付けられるのですが、その中でもおそらく一番早く名前を付けられたのがクッちゃん。今回はこのクッちゃんのお話し。

クッちゃんは昨年5月に導入したコッコ。松本から連れ帰ったヒヨコ達を一羽一羽手に取って給水器の水に嘴をつけてから育雛箱に入れていきます。その時には特に特徴のあるヒヨコはおらず、クッちゃんはまだ識別できませんでした。約1か月後、次のヒヨコが来るということで、現在の鶏舎に引っ越ししました。その際も一羽一羽手に取ってケージに入れて移動させましたが、その段階でもまだクッちゃんは認識できませんでした。

 それからどの位経った頃でしょうか。ヒヨコとはもう呼べない中雛になった頃、餌をあげていると、一番に近寄ってきた子の嘴が曲がっているのに気が付きました。それがクッちゃんです。上の嘴が大きく左に曲がっていて、上下の嘴の先が全く合いません。地面に落ちている餌をついばむにも非常に苦労していてなかなか食べられていない様子でした。

どうしたのかと捕まえて詳しく見ようとしましたが、なかなかすばしっこくて捕まえづらい位よく動く子でした。よく見ると顔の前面も少し歪んでいるようでした。どうやら最近何かあったのではなく、まだ小さいヒヨコの頃に正面から何かに強くぶつかる事故が起き、その時にちょっと歪んだ嘴が成長するにしたがって大きく曲がってきてしまっているようでした。

体自体は他の子たちに比べてちょっと小さいかなという位でしたが、トサカの大きさなどは明らかに小さく、成長はかなり遅れているという感じでした。よくここまで成長できたなと思うのと同時に、これからきちんと成鳥まで育つか、産卵できるようになるか、心配する位でした。

餌を食べるのにかなり苦労しているだけでなく、鶏の習性であるつつきもうまくいかず、水を飲むのも大変な感じでした。それから餌をあげる際や水の補充など事あるごとに注意深く観察しましたが、クッちゃんがここまで成長できた理由が分かりました。それは驚くべき行動力と積極的な性格です。

餌やりの際には必ず最前線に陣取り、真っ先に食べ始める、しかも一か所に留まって食べるのではなく、食べやすい餌の塊を求めて、突いて移動して、突いて移動してを繰り返し、コッコ達の間を縫うようにして餌を食べています。飲み水をジョーロで補充する際も、どんなに遠くにいても一目散に駆け寄ってきて、ジョーロから注がれる水を直接飲んでいます。たらいに入った水を飲むのは苦労するのでジョーロから直接飲んでいるのです。

こういったクッちゃんの努力を見ていて、何か胸を打たれるものがありました。遅いながらも少しずつ確実に成長し、他のコッコ達にいじめられることもなく、集団の中に居場所を確保しているのです。ちょっとおとなしめの性格であればここまで成長できなかったのではないかと思います。

他のコッコ達が産卵し始めて遅れること3か月位。クッちゃんが産卵箱の中にいるのを発見しました。その時に産んだであろう卵は正品として出荷することはできないものでしたが、その後、しっかりと良い卵を産んでいるようです。

最近、嘴の先の方が割れてきていて心配していますが、何とかその行動力と積極的な性格で、うまく生きていってほしいと願っています。